最近、「半導体」という言葉を本当によく耳にするようになりました。AI、電気自動車、スマートフォン、国の経済安全保障、そして日本では「ラピダス」という新しい企業への投資。重要だということは分かるものの、「半導体って結局なに?」「CPUやGPUって何が違うの?」と聞かれると、正直うまく説明できない自分がいました。
私は普段、ウェブサイト制作や写真撮影を仕事にしています。
毎日のようにパソコンやカメラを使い、データを扱い、AIツールにも触れています。それなのに、その中核で動いている半導体については、「難しそう」「専門家の世界」という感覚で、深く考えたことがありませんでした。
そんな中、「コンピューターは0と1で動いている」という、ごく基本的な話を改めて思い出し、そこから少しずつ調べ始めてみました。すると、半導体の世界は意外にも整理しやすく、そして今の世界情勢や日本の立ち位置と強く結びついていることが見えてきたのです。
この記事では、専門家ではない一人の制作者として、「半導体って何?」という素朴な疑問から出発し、現在の世界の半導体事情がどうなっているのかを整理していきます。読み終わったときに、「なるほど、今こういうことが起きているんだな」と感じてもらえれば幸いです。
半導体とは何か?まずは一番シンプルな定義
半導体をとても簡単に言うと、電気を通したり止めたりできる物質です。この「通す」「止める」という性質を利用して、コンピューターは情報を処理しています。コンピューターの中では、すべての情報が
0(電気が流れていない)
1(電気が流れている)
という2つの状態で表現されています。この0と1を切り替える役割を担っているのが、半導体の中にあるトランジスタです。
トランジスタとは何か
トランジスタとは、極めて小さな電気のスイッチです。現在の半導体チップには、このスイッチが数十億〜数百億個も詰め込まれています。つまり半導体とは、0と1を切り替える超微細なスイッチを、信じられない密度で集めた部品だと考えると、最初の理解として十分です。
コンピューターは「計算」と「記憶」でできている
半導体を理解するうえで、とても分かりやすかった考え方があります。それは、コンピューターの役割は大きく2つに分けられる、というものです。
計算する役割(プロセッサ)
もう一つは「計算をする」役割です。この役割を担う半導体をプロセッサと呼びます。代表的なものが次の3つです。
CPU(中央処理装置)
CPUは、コンピューター全体の司令塔です。計算、判断、制御など、幅広い処理を担当します。一つ一つの作業を確実にこなす「万能型」の存在です。
GPU(画像処理装置)
GPUは、同じ計算を大量に一気に行うのが得意です。もともとは映像処理用に発展しましたが、この「並列処理能力」がAIの計算と非常に相性が良く、現在ではAI分野の主役になっています。
TPU(AI特化型プロセッサ)
TPUは、GoogleがAI専用に設計したプロセッサです。AIの計算に必要な処理だけに特化しているため、効率が非常に高いのが特徴です。これらはすべて、計算を担当するスイッチの集合体だと考えると整理しやすくなります。
記憶する役割:メモリとストレージ
計算だけではコンピューターは動きません。計算途中のデータや、結果を保存する場所が必要です。
メモリ(DRAM)
メモリは、作業中のデータを一時的に置いておく場所です。机の広さに例えられることが多く、メモリが大きいほど多くの作業を同時に進められます。
ストレージ(SSDなど)
ストレージは、データを長期間保存する場所です。写真や動画、ソフトウェアなどを保管する「倉庫」の役割を担います。
マイクロンという会社
マイクロンは、このメモリ分野で世界トップクラスの半導体メーカーです。日本・広島にも大規模な工場があり、AI時代に重要となる高性能メモリの供給拠点になっています。
プロセッサ・メモリ・ストレージを、身近なパソコンやスマートフォンに例えると?
ここまで「プロセッサ」「メモリ」「ストレージ」という言葉が出てきましたが、
これらは実は、私たちが日常的に目にしているパソコンやスマートフォンのスペック表そのものです。
ノートパソコンを買うときに、
- CPU:〇〇
- メモリ:16GB
- ストレージ:512GB SSD
といった表記を見たことがあると思います。
それぞれが、これまで説明してきた役割にそのまま対応しています。
プロセッサ(CPU・GPUなど)=「頭脳・作業する人」
まずプロセッサは、パソコンやスマートフォンの「頭脳」にあたります。
アプリを起動する、計算する、画面を表示する、写真を処理するなど、
何かを“動かす”作業はすべてプロセッサが担当しています。
- パソコンなら「CPU(Intel、AMD、Apple Mシリーズなど)」
- スマートフォンなら「SoC(Snapdragon、Apple Aシリーズなど)」
がこれを担います。
性能の高いプロセッサほど、
- 処理が速い
- 動作が滑らか
- AI処理や動画編集が快適
といった違いが体感できます。
メモリ=「作業机の広さ」
メモリは、「作業机の広さ」に例えると非常に分かりやすいです。
例えば、
- ブラウザを開く
- 動画を再生する
- 写真編集ソフトを起動する
こうした作業中のデータは、一時的にメモリの上に並べられます。
メモリが少ないと、
- 作業机が狭い
- 一度にできる作業が少ない
- アプリを切り替えるたびにモタつく
という状態になります。
逆にメモリが多いと、
- 多くのアプリを同時に開ける
- 動作が安定する
- 重い作業でも落ちにくい
といったメリットがあります。
スマートフォンで「アプリを切り替えるとすぐ落ちる」「動作が重い」と感じる場合、
原因はプロセッサよりもメモリ不足であることも少なくありません。
ストレージ=「引き出し・倉庫」
ストレージは、データを長期間保存する場所です。
写真、動画、アプリ、OSそのものも、すべてここに保存されています。
- パソコンなら SSD や HDD
- スマートフォンなら 内蔵ストレージ(128GB、256GBなど)
がこれにあたります。
ストレージの容量が小さいと、
- 写真や動画がすぐいっぱいになる
- アプリを消さないと更新できない
といった不便さが出てきます。
また最近は、
- HDD → SSD という流れが進み、**保存場所そのものの「速さ」**も重要になっています。
SSDは「引き出しからサッと取り出せる」イメージ、
HDDは「奥の倉庫から探してくる」イメージです。
3つをまとめてイメージすると
ここまでをまとめると、こう考えると理解しやすくなります。
- プロセッサ:作業する人(頭脳)
- メモリ:作業机の広さ
- ストレージ:引き出し・倉庫
どれか一つだけが高性能でも、快適にはなりません。
- 頭脳が優秀でも、机が狭いと作業は詰まる
- 机が広くても、頭脳が遅いと作業は進まない
- 作業が速くても、保存場所が足りないと困る
パソコンやスマートフォンの「使いやすさ」は、
この3つのバランスで決まっているのです。
半導体の話が「自分ごと」に変わる瞬間
こうして見てみると、
半導体の話は決して遠い世界の話ではありません。
- 「CPUが速い」
- 「メモリは16GB欲しい」
- 「ストレージは256GB以上が安心」
こうした日常の感覚そのものが、
半導体の性能や役割を体感している証拠です。
世界で起きている半導体不足やAI向け半導体の争奪戦も、
突き詰めれば「私たちの身近なデバイスを、より速く・賢く動かすための基盤」を巡る話なのだと、
少し身近に感じられるのではないでしょうか。
半導体業界は「設計」と「製造」で完全に分業されている
半導体の世界が分かりにくい理由の一つが、この分業構造です。
設計する会社(ファブレス企業)
NVIDIA、Apple、Googleなどは、半導体の設計専門です。自分たちでは工場を持たず、「どんな半導体を作るか」という設計に集中します。
作る会社(ファウンドリ企業)
設計図をもとに、実際に半導体を製造するのがファウンドリ企業です。代表例が、台湾のTSMCです。半導体工場の建設には、数兆円規模の投資が必要なため、世界でも限られた企業しか担えません。
なぜ今、半導体が「不足している」と言われるのか
「半導体不足」と聞くと、すべてが足りない印象を受けますが、実際には特定分野が特に不足しています。それが、AI向けの高性能GPUや先端半導体です。
AIは非常に多くの計算を必要とします。そのため、データセンターでは大量のGPUと高性能メモリが必要になり、需要が一気に膨らみました。この急激な需要増加に、生産が追いついていないのが現在の状況です。
日本は半導体で遅れているのか?
日本は、最先端半導体の大量生産競争では、確かに出遅れました。しかし、それは「何もできていない」という意味ではありません。日本は、
半導体を作るための材料や製造装置
の分野で、世界トップクラスのシェアを持っています。シリコンウエハー、フォトレジスト、精密加工装置など、これらがなければ半導体は作れません。つまり日本は、半導体産業を根底から支える存在なのです。
ラピダスとは何か?日本の再挑戦
こうした背景の中で、日本は「ラピダス」という企業を立ち上げました。目的は、先端半導体の製造技術を国内に取り戻すことです。ラピダスは、台湾のTSMCのような超大量生産モデルとは異なり、
特定の顧客や用途に向けた先端半導体を、柔軟に供給する
という立ち位置を目指しています。日本の精密技術を生かした、新しい挑戦と言えるでしょう。
調べてみて分かったこと
半導体は、難解な専門用語の世界に見えますが、
「0と1のスイッチ」
「計算と記憶」
「設計と製造の分業」
という軸で整理すると、驚くほど見通しが良くなります。半導体は、私たちの日常のすぐ足元で世界を支えています。そして今、その半導体を巡って、世界は大きく動いている。そう理解できただけでも、調べてみた価値は十分にあったと感じています。
まとめ:半導体は、私たちのすぐ足元で世界を動かしている
半導体という言葉は難しく聞こえますが、整理してみるとその役割はとてもシンプルです。
0と1を切り替えるスイッチとして情報を扱い、「計算する役割」と「記憶する役割」を分担しながら、パソコンやスマートフォン、AIやインターネットの基盤を支えています。
CPUやGPUは頭脳、メモリは作業机、ストレージは倉庫。こうして身近なデバイスに置き換えることで、半導体の仕組みは一気に理解しやすくなります。
現在、世界では特にAI向けの高性能半導体を中心に需要が急拡大しています。その中で、日本は先端半導体の大量生産では遅れを取った一方、材料や製造装置といった不可欠な分野で世界を支える重要な立場にあります。ラピダスは、その強みを生かしながら再び先端半導体に挑戦する試みです。
半導体は遠い専門家の世界の話ではなく、私たちの日常の延長線上にある存在です。そう理解できたとき、ニュースや技術の話が少し身近に、そして立体的に見えてくるのではないでしょうか。
